「大好きなお友達がいるの」
にっこり笑って、奈々ちゃんは言った。
「ずーっと、ずーっと一緒なの」
にっこりと、とっても嬉しそうに笑う。
話し掛けてくれて、笑いかけてくれる……それはとても嬉しいことなんだけど、でも同時になんだかちくりと胸が痛むんだ。
毎日毎日、奈々ちゃんが僕に話してくれるのは、楽しかった幼稚園での出来事。今日はどんなお歌を歌ったかとか、誰と何をして遊んだんだとか。
奈々ちゃんの話を聞いていると、僕も楽しくなって来る。けれど、奈々ちゃんが僕の前からいなくなると、すぐに悲しくもなって来るんだ。
幼稚園に入るまで、僕と奈々ちゃんはいつも一緒だった。お外に遊びに行くにも、お母さんとお買い物に行く時も。
ずっとずっと、一番そばでいつも一緒で、一番の仲良しだったんだ。
なのに、今は。
奈々ちゃんは幼稚園に通い出して、いつも楽しそう。
僕は幼稚園には行けなくて、いつもどこか寂しい。
今も奈々ちゃんは、今度の日曜日にお友達と行くピクニックの話を楽しそうにしてくれる。
嬉しいのに。楽しいのに。それでも、どうしても寂しくてたまらない。
もう僕は一番の仲良しじゃないのかな。
奈々ちゃんは、やっぱり幼稚園のお友達と遊ぶ方が楽しいのかな。
奈々ちゃんが笑ってくれるのは嬉しい。いつも幸せでいて欲しいと思う。
けれどそこには、もう僕の居場所はないんだろうか――?
日曜日は、とってもいいお天気だった。
窓の外の空は綺麗な青で、いつも浮かんでいるはずの雲は、天気のよさにどこかに遊びにいってしまったみたいに、ひとつも見当たらなかった。
ぽかぽかとあったかくて、最高のピクニック日和だねって、奈々ちゃんは笑ってた。
優しいお日さまの誘いに、飛び出していく奈々ちゃん。
どこか薄暗い、寂しい部屋に残される僕。
いってらっしゃい、気を付けてね。
笑って言いたいのに、言えない。だって、奈々ちゃんがいなくなったら、僕はたった独り取り残されてしまうんだから――
「あ!いっけない、忘れてた!」
窓の外から、そんな奈々ちゃんの声が聞こえた。そのままピクニックにいくのも忘れてくれたらどんなにいいだろうと思わずにはいられない。
……嫌だな。どうして、そんなことを思うようになっちゃったんだろう。こんなんじゃ、奈々ちゃんにも嫌われちゃうよ……
ぱたぱたと楽しそうな足音が近付いてくる。部屋のドアが開かれて、笑顔の奈々ちゃんが入ってきた。
「ごめんね、忘れちゃうところだった」
にっこり笑ってそう言うと、奈々ちゃんは両手でそっと僕の身体を抱き上げた。
「みんなにね、約束したの。奈々の一番のお友達を紹介するからって。それでね、一緒にピクニックに行こうねって」
奈々ちゃんの笑顔が近い。僕をだっこする腕があったかい。
一番のお友達……それってもしかして、僕のこと?
どきどきしてる僕を連れて、奈々ちゃんはもう一度外へと飛び出した。そこにいたのは、幼稚園での奈々ちゃんのお友達。みんな楽しそうな笑顔で、僕達に駆け寄ってきた。
「紹介するね。この子が奈々の一番のお友達の、くー太だよ」
そう言って奈々ちゃんが僕をぎゅっと抱き締める。よろしくねって言って、みんなが僕のふわふわの頭を撫でてくれたんだ。
嬉しくって、まあるい耳もぴんと立っている気がした。
……不思議だね。
さっきの嫌な気持ちもどこかに逃げていっちゃったみたい。
「じゃあ、しゅっぱーつ!」
奈々ちゃんのかけ声とともに、みんな一緒に歩き出した。目指すのは、丘の上にある公園。僕も一緒に連れてってもらえるんだ。
奈々ちゃんと一緒で。みんなと一緒で。
ぽっかぽかのにっこにこで、僕はとっても幸せになった。
奈々ちゃんは、僕の事を忘れたわけじゃなかったんだ。
見上げた空には、よかったねっておひさまも笑ってた。
03.11.12