【 初恋 】





“ 初恋は 実らない ”
そんなことを言ったのは、一体誰なんだろうか?

春――が、近づいてくる。
「あのひと」と出会って、一年目の春。
「あのひと」への想いが、一年分たまった春。
いつもなら、嬉しいはずの春。
なのに、今年は春が来るのを恐れてる。

――――なぜ?

わかってたはずなのに。「あのひと」と逢った時から。


“ あのひとは 春になったらいなくなる ”


そう。私は高一。「あのひと」は高三。春になれば、“卒業”という名の別れがやってくる。
「あのひと」が三年だとわかってから。「あのひと」を好きになった時から。
最初から、覚悟していたはずだった。
なのに、涙が出る。胸が苦しくなる。


―― 春なんて、来なきゃいいのに ――



私の心とは裏腹に、刻々と過ぎていく、“時間”
訪れる、春。そして――別れ。
イヤだよ。苦しいよ。
まだずっと、「あのひと」を見ていたいのに……。


「告白、しちゃえば?」

――告白?

告白なんて……考えもしなかった。……ううん。ホントは、知ってた。その手もある、と。だけど、“告白”と一緒にまとわりつく“不安”に、そんな考えは心の奥の、底の底に押し込められてた。

“不安”

もし……断られたら?
「告白する時は、振られるの覚悟でって言うじゃん?」
そんなこと言ったって……
「とにかく! 言っちゃわないと、後悔するよっ!?」
後悔……?
「だって、好きなんでしょ?」
好き――?
……うん、そう。好きなんだ。
好きだから、苦しい。好きだから、悲しい。好きだから、切ない。
好きだから……春が来るのが、怖い。

…………好きだから…………


努力は、した。 
手紙も書いてみた。
教室までも、行ってみた。
……だけど……
「あのひと」を見ると、「あのひと」のことを考えると、苦しくなる。動けなくなる。

…………告白なんて……できない…………

なのに。
それでもやっぱり、時間は変わらぬ速さで流れていく――――




――春が、来る。
希望を運ぶはずの、春が。暖かいはずの、春が。
別れと悲しみを、冷たく運んでくる。


“ あのひとは 今日 いなくなる ”



式も終わって、校庭で別れを惜しむ、“卒業生”
「あのひと」を見つける。自然に、目が追う。追っていくうちに、「あのひと」の姿は歪み始めた。

ほんとに、いなくなるの?
もう……会えなくなるの?
見ることすら……できなくなるの――?

――どくん……!

鼓動が、波を打つ。

――イヤだ。そんなのは、イヤだ……!

そう、思ったとたん。
考えるより先に、身体が動いていた。
乱暴に袖で涙をぬぐい、一気に駆け出していく。
――そう。「あのひと」のもとへ……。



悲しみも、苦しみも、切なさも……もうどこかに吹き飛んだ。
あとにはなんだか幸せな……満足感が残ってる。

――がんばったね。

鏡の中の、真っ赤な目をした自分に呟く。

―― “ごめん”

やっぱり「あのひと」は素敵な人だったよ。
真剣に聞いてくれて、真剣に、答えてくれた。
悲しかったけど。苦しかったけど。切なかったけど……。
でも、もう、大丈夫。
もう、春は……怖くない。


―― “ありがとう”

「あのひと」が、そう言って笑ってくれたから。


“ 初恋は 実らない ”

それでも、まあ……いいんじゃない………?





03.08.02


* 高校時代の作品その3。
しかし…なんてポエムちっくな(笑)